紙屋町再生とエリアマネジメント

(まちづくり提言②)


 八丁堀と並ぶ広島の中心市街地、紙屋町の衰退が叫ばれて久しいですね。そごうの弱体化、地下街の不振、と寂れる一方の感があるこの地区ですが、この地区の不振は、結果として「広島の中心市街地の求心力低下」に結びつきます。
 他の地方都市の中心市街地が軒並み空洞化している現在、広島の中心市街地の八丁堀~紙屋町は、その存在だけで都市観光資源となります。このページでは、広島の中心市街地の一翼を担う紙屋町の再生について考えてみたいと思います。
 そもそも、なぜ紙屋町は衰退したのでしょうか。私は、要するに郊外型SC等の影響により、広島都心部全体の求心力が下がってきており、その影響が、繁華街の西端である紙屋町に強く出ているのだと認識しています。
 つまり、都心部全体の求心力が低下して来ているのが問題なのですから、この問題を解決するためには、都心部の求心力を上げていくのが常套手段となるでしょう。
 では、どうすれば都心部の求心力が上がるのか。根本的な問題として、交通網整備の問題(要するに、いつまでも遅くて狭い路面電車で良いのか、という問題)があるのは確かですが、このページではそれは述べません。このページでは、都心部の魅力アップについて語りたいと思います。
 この、都心部の魅力アップの方法として、今話題となっているのが市民球場跡地利用ですね。元々、球場跡地の議論のスタートは「都市公園法の範囲内で、年間150万人の集客施設を」という話でしたが、この話、何とも小さい話ですね。
 年間150万人程度の集客など、紙屋町八丁堀全体の集客力から見ると微々たるもの。ここはもっと大きく考えて、次のような施設を建設することを考えてみたらどうでしょうか。


 はい。福岡市のキャナルシティ博多ですね。キャナルシティ劇場やラーメンスタジアム等を有し、広域集客を実現している他、例えばシネマコンプレックスやディズニーストア、スポーツオーソリティの大型店舗のように、広島では郊外に立地しているものが普通にテナントとして入居し、市民の郊外流出を防いでいる。また、施設中央のステージでは、毎日のように楽しいイベントが行われる…。
 こういう施設が広島の都心部にもあったらいいなぁと思いません? もし広島の都心部にあったら、百貨店やファッションビルが立ち並ぶ八丁堀とはまた一味違う、楽しい街となると思います。八丁堀とパイを奪い合うこともなく、相乗効果が生まれることでしょう。

 

 …ここで突込みが入りそうですね。「アホかいな。市民球場跡地は都市公園だから、商業施設は建設できないぜ」とか、「そもそも、そんな巨大な商業施設を今の時代に建設してくれる事業者がいるはずないだろ」とか…。
 ご指摘、ごもっともです。しかし、考え方次第では、キャナルシティのような商業施設を広島都心部に造ることは可能と考えます。次の写真を見てください。


 はい、基町クレドですね。この施設、タイプとしてはキャナルシティと同タイプの「複合商業施設」です。しかも、デザイン面では決してキャナルシティにも負けておらず(むしろ私は基町クレドの方が好きです)、ここを発展させることにより、キャナルシティ並みの人気施設とすることは充分可能と考えます。具体的に言うと、そごう本館を建て替えることにより、シャレオ+そごう本館+基町クレドを一体化させるのです。それが出来れば、この場所は、キャナルシティと匹敵する注目スポットになるのではないでしょうか。キャナルシティが、あの中途半端な立地であれだけの集客を実現しているのです。福岡より一回り小さい街の広島でも、都心部ならば充分成功するものになるのではないでしょうか。

 そもそも、百貨店業界自体が斜陽傾向にある中、そごうとしてもいつまでもあの巨大な店舗をそのままにして置くのは得策ではないはずで、時代にあった形態に変化させていくのは必要不可欠ではないでしょうか。その方法として、基町クレド+そごう本館(建て替え)+シャレオ→キャナルシティ化を提案したいと思います。
 では、具体的にはどのようなイメージのものか。考えてみたいと思います。キャナルシティは周辺の環境に背を向け、周辺とは独立した商業施設となっていますが、広島では逆に周辺との繋がりを積極的に持たせることにより、「ひとつの街」としてキャナルシティに対抗したいですね。

そごう本館~基町クレド間の歩道。幅員も充分でなく、空間的にも寂しいものがある。結果として、基町クレドまでの動線がきちんと確立されていない感がある。
そごう本館~基町クレド間の歩道。幅員も充分でなく、空間的にも寂しいものがある。結果として、基町クレドまでの動線がきちんと確立されていない感がある。
建て替え後のそごう本館は赤線あたりまで後退して、豊かな歩行者空間を確保することに努めたらどうだろうか
建て替え後のそごう本館は赤線あたりまで後退して、豊かな歩行者空間を確保することに努めたらどうだろうか
拡幅された歩道にこういったワゴンタイプのお店が並べば、歩いて楽しくなり、回遊性も増すはず。
拡幅された歩道にこういったワゴンタイプのお店が並べば、歩いて楽しくなり、回遊性も増すはず。
地下街シャレオからのそごう入口。エスカレーターやエレベーターを設置する等、努力していることは認めるが、「歩いて楽しい」空間ではない。
地下街シャレオからのそごう入口。エスカレーターやエレベーターを設置する等、努力していることは認めるが、「歩いて楽しい」空間ではない。
基町クレドのサンクンガーデン。本来なら、地下街とそごうを結ぶ正面にこれくらいの豊かな空間が欲しい。
基町クレドのサンクンガーデン。本来なら、地下街とそごうを結ぶ正面にこれくらいの豊かな空間が欲しい。
豊かな空間には、面白いものが集まる。そごう本館建て替えでデザインに配慮すれば、シャレオ中央広場や基町クレド前広場はもっともっと楽しくなるのではないか。
豊かな空間には、面白いものが集まる。そごう本館建て替えでデザインに配慮すれば、シャレオ中央広場や基町クレド前広場はもっともっと楽しくなるのではないか。

  なお、シャレオ+そごう本館(建て替え)+基町クレド→キャナルシティ化と言いますが、ハードだけ一体化しても不十分です。商業施設として全体の一体化、ソフト面の充実によるエリア全体での魅力向上が不可欠です。

 逆に言うと、ソフト面で一体化を図ることが出来、エリアのブランド力が向上するようならば、ハード面の改修がなくとも、充分紙屋町再生が果たせる訳です。

 ちょっと具体的に考えてみましょう。

(もとまちパーキングアクセス。各駐車場は隣接しているのですから、管理運営は一体化させれば良いと思いますが…)
(もとまちパーキングアクセス。各駐車場は隣接しているのですから、管理運営は一体化させれば良いと思いますが…)

 例えば、この地区では、各施設が地下に大きな駐車場をそれぞれ持っていて、その駐車場の入り口は「もとまちパーキングアクセス」として一体化してあります。

 ただ、入り口を一つにまとめてあるのは良いのですが、それぞれの駐車場がそれぞれの施設ごとに管理されていますね。いわゆる「縦割り」というやつです。入り口は同じなのに、中に入って、右側にある駐車場と左側にある駐車場を使ったのでは、料金も割引サービスも違う。なので、満車の駐車場に行列ができる一方で、すぐ隣にガラガラの駐車場があったりする。縦割りなので仕方ありませんが、正直、めんどくさいし、分かりにくいですよね。こんなのは、もう一体化して管理したらどうでしょうか。

 ん? 誰が管理するのかって? この地区には、紙屋町・基町回遊性向上連絡協議会という協議会が存在します。体育館も、地下街も、商業施設もこの協議会のメンバーです。それならば、全駐車場が、この協議会に管理運営を委託して、協議会で一括管理したらスムースな運営ができるのではないでしょうか?

(紙屋町・基町回遊性向上連絡協議会の構成員一覧。一体化して、地域のブランド力向上に努めたいところ。(協議会のHPより借用))
(紙屋町・基町回遊性向上連絡協議会の構成員一覧。一体化して、地域のブランド力向上に努めたいところ。(協議会のHPより借用))

 この協議会で出来ることはまだあるでしょう。例えば現在は、赤ちゃんを連れてこの界隈を歩くと、リーガロイヤルホテルではホテルのベビーカーを、そごうではそごうのベビーカーを使わなければなりません。まあ、管理者が別々なので当たり前ですが、これも面倒な縦割りですね。ホテルから100mも離れていない商業施設に行くのに、何故わざわざベビーカーを乗り換えなければならないのか。これも一括管理すればよいじゃないですか。先ほどの協議会でまとめて管理・運営しましょう。

 ほかにも、エリア全体でバナーを統一するとか、エリア全体でイベントを開催したり、セールを開催したりと、色々考えられます。

 また、今話題の市民球場跡地利用も同様のことが言えます。今、このエリア内にあるエディオンが、「自ら30億円出資してサッカースタジアムを建てる」と言っていますが、そうではなくて、地域としてどう考えるのか。例えば「紙屋町・基町全体でメリットがあることなので、地域の協議会で40億円負担する」とか、「紙屋町・基町ではこんな風に球場跡地を使いたい。地域のブランド力向上にも繋がることなので、維持管理や運営については地元協議会で受けたい」とか言えるようになれば、市民球場跡地活用議論ももっと進んでいくことでしょう。

 そういう具合に、地域全体で一体化していかに盛り上がっていくのか。エリア全体で付加価値をいかに付けていくのか。この発想が、今、まちづくりの世界で話題となっている「エリアマネジメント」となってくるのですが、そういう具合に、エリア全体で地域のブランド力向上を図ることが出来れば、紙屋町の再生は充分果たせるものと思います。今ある紙屋町・基町回遊性向上連絡協議会の今後の発展に期待したいと思います。


 おまけ①:エリアマネジメントについて

 本文中で取り上げた「エリアマネジメント」。全国で様々な事例が出てきていますが、私が見た中で大きく感銘を受けたのが、高松市の丸亀町商店街ですね。広島でいう本通りのようなところですが、ここの再開発の一番大きな特徴は、再開発後のビルの管理・運営をまちづくり会社である「高松丸亀町まちづくり(株)」が行っていること。商店街をトータルで管理・運営しているので、商店街を一つのSCとみなして(イオンモールのように)、様々な戦略を打つことが出来ています。

(ちなみに、この界隈は丸亀町でも「壱番街」と言って、三越に隣接するハイセンスな地域。なので、1階部分のテナントもグッチなりコーチなり、ブランドものを集めています。こういう「コンセプトに基づくまちづくり」が出来ています)
(ちなみに、この界隈は丸亀町でも「壱番街」と言って、三越に隣接するハイセンスな地域。なので、1階部分のテナントもグッチなりコーチなり、ブランドものを集めています。こういう「コンセプトに基づくまちづくり」が出来ています)

 まあ、難しいことを言う前に見てもらった方が良く分かるでしょう。右写真は、この商店街の北端で行われた再開発です。右側と左側の再開発ビルでデザインを統一し、街に一体感を持たせています。さらに凄いのが、2つの再開発ビルを、2F、3Fレベルでも自由連絡通路で繋げていること。広島の本通りを考えてみてください。地権者が違う、たまたま向かい合わせにある建物を、統一したデザインに再開発するなんて考えられますか? で、その間に自由連絡通路を設けるなんて考えられますか? ついでに言っておくと、この2ビル。両方とも3階には紀伊国屋書店が入っています。確かに、1つのビルの1フロアでは紀伊国屋の店舗としては面積が狭い。ここで、普通なら、「じゃあ、2階と3階で店舗を展開します」となるのですが、ここでそうしないのが面白いところ。こちらの方がよほど自然です。商店街を一体で運営しているから出来る技でしょうね。

(上の写真の壱番街が、大人向けの街だったのに対し、この界隈は若者向けとなっています。そういうコンセプトに沿ったまちづくりが出来るのは、まちづくり会社が一括して運営しているからですね)
(上の写真の壱番街が、大人向けの街だったのに対し、この界隈は若者向けとなっています。そういうコンセプトに沿ったまちづくりが出来るのは、まちづくり会社が一括して運営しているからですね)

 もう一つ、右写真の再開発。商店街の南端ですが、再開発ビル建設に際して、大きな広場的な空間を設けています。ここにも当然地権者は存在する訳で、個別に再開発を行うなら、商売できる自分の土地をわざわざ広場にする人なんていません。こういう空間が実現できるのは、共同で建物を建て、一括で管理するから可能となるのです。現在の広島の本通りではちょっと考えられないことをやっています。

 

 と言うことで、エリアマネジメントの代表的な例である丸亀町のご紹介でした。下に、この丸亀町の事例を詳しく紹介している書籍を紹介するので、是非ご覧ください。また、是非行ってみてください。純粋に面白い街ですよ。ここぐらい凄いことをやれとは言いませんが、紙屋町・基町回遊性向上連絡協議会は、こういうものを手本に、もっともっと「まちづくり」をしてもらいたいものだと思います。


おまけ②:もう一つの改善点

 紙屋町が抱える問題を考えた場合、本通方面からこの地域までの歩行者動線の改良という点で、もう一箇所改良すべき箇所がありますね。右上写真がその場所で、要するに本通りからシャレオへの入り口部分ですね。本通りからシャレオに行こうと思った場合、写真にあるアストラムライン本通り駅の入り口から行くのが一般的かと思いますが、これがまた不便。狭くてグニャグニャした階段を通り、本通り駅の隣を通ってシャレオに行くようになります。

 これが何とも面倒なのですよね…。この部分を改良できれば、シャレオの人通りも随分増えるのではないか、と思います。
 出来ることならば、写真手前のビルに立ち退いていただいて、右下写真のような空間を整備したいところです。それこそ、エリアの課題として取り組んでもらいたいところです。

(博多で見かけた、地下への入り口)
(博多で見かけた、地下への入り口)


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